カウログスク難民キャンプ

はじめまして。IVY(アイビー)の安達です。IVYは、東北のNGOで、カンボジアや東日本大震災での支援活動をはじめ、現在はイラク北部のクルド人自治区で活動しています。FUNNさんとは外務省のNGO相談員のつながりで2年前の「地球どんたく」に出させていただきました。遠く離れた東北での震災に心を寄せたり、支援に尽力されている多くの方々に出会い、刺激と感銘を受けたのを覚えています。

震災と同じ2011年3月に始まったシリア危機

さて、今回は「東北」よりもさらに遠い「シリア、イラク、クルド」の話です。
シリアの今の混乱が、震災と同じ2011年3月に始まったことはあまり知られていません。
きっかけは、首都ダマスカスの南に位置するダルアー県で「政権打倒」と壁に落書きした少年約30人が逮捕されたことから、保釈を求めて起きたデモが発端でした。デモはやがて国中に飛び火し、6月末には「シリア国民連合」をはじめ政治同盟が次々と結成され、9月には「自由シリア軍」などの軍事勢力が台頭。国際社会も欧米側とロシア側にまっぷたつに分かれ、双方が武器を与えたことから、民主化は脇へ追いやられ、泥沼の戦場になってしまっています。

周辺国に逃れる難民

戦闘が激化するに伴い、国外に避難する人の数は2年後の13年4月には100万人に達し、現在は300万人もの人たちがレバノン、トルコ、ヨルダン、イラク、エジプトなど周辺国へ避難し、国内での避難者数も650万人と国民の半分が難民という大変な事態です。
出典:http://data.unhcr.org/syrianrefugees/regional.php

しかし、他国に入れてもらうのも、難民キャンプに保護してもらうのも容易ではありません。
IVYが支援活動を行っているイラクのクルド人自治区では、シリアとの国境に検問所が設けられ、情勢に応じて開けたり閉じたりしています。やっと入国できても次は難民登録の長い列に並び、登録して難民キャンプに入ることができ、食料やテント等の保護が受けられるのです。

一方で、難民が全員、難民キャンプに入るわけではありません。クルドの場合、キャンプとノンキャンプの比率は4対6です。キャンプ外に暮らす人は仕事を求めて都市に移動し、アパートを借りたり空地に小屋を建て細々とした稼ぎで暮らしています。しかし、物価は日本並みに高く、家賃と食べるだけで精いっぱいです。

なぜイラク?クルド人自治区?

さて、IVYの難民支援ですが、震災支援で得た知見を世界の緊急援助の分野で生かそうというムードが震災から2年が過ぎた昨年春くらいから団体内で芽生え、4月にジャパン・プラットフォームに加盟。ハイチ、南スーダン、シリアが候補に挙がりましたが、やはり当時、難民数が100万人を超えたシリア難民をということになり、周辺5か国の中でも特に支援の遅れていたイラク北部のクルド人自治区での支援を決めました。
今でこそクルド人自治区は「イスラム国」の脅威が迫っており、米軍の空爆まで始まり、緊張もピークですが、昨年の10月頃のアルビルは第2のドバイとまで言われるほど経済が発展し、比較的治安も安定していたのです。

シリア難民の子どもたちを学校へ

IVYの運営方針は「自立支援」。そのため、難民キャンプではなく、あえて難しいと言われる都市難民に焦点を絞りました。そしてまずアルビル市内でも家賃の安い3つの地区からさらに貧困世帯を抽出し、12月に約350世帯にストーブや灯油を配りました。そしてモニタリングで訪問した先で見えてきたのは、一日中、部屋の中で過ごす子どもたちの姿でした。

IVYがスタートさせた補習校で久しぶりに学ぶ子どもたち。真剣なまなざしで勉強に取り組む。

▲IVYがスタートさせた補習校で久しぶりに学ぶ子どもたち。真剣なまなざしで勉強に取り組む。写真提供:久保田弘信

同じクルド人ですが、シリアの子はアラビア語しか話せないため、地元の学校には行けません。その上アラビア語の学校は少なく、交通費のかかる遠い郊外ばかり。そのため、アルビル市には現在推定で7千人の小学年齢のシリア難民の子どもたちがいますが、5千人もが通っていないのです。そこで学校をつくろうと現地の女性スタッフ3人(日本、クルド、シリアの多国籍チームです!)が奔走して、女子中学校の午後の空き教室を借り、4月に補習校をオープンさせました。200人の子どもたちを市内から3台のバスで集め、この5か月間、算数、英語、アラビア語、クルド語の授業を行ってきました。うれしいことに9月には正式な小学校に昇格させてもらえることになり、全員の入学が決まっています。

しかし、拾えた子どもはまだほんの一部にすぎません。シリアに帰れる日までせめて小学校くらい通わせてあげたい!ぜひご寄付をお寄せください。

イラクの国内避難民への支援も計画中

今、アルビルには、「イスラム国」の迫害を逃れた少数民族のヤジディ教徒やキリスト教徒が避難しています。これらの方々への緊急支援も検討しているところです。
【ご寄付の振込先】
郵便振替 02290-2-85967 加入者名:IVY

国際協力ニュースVol.105掲載 (2014年8月発行)

【筆者】 安達三千代 (あだち・みちよ)
認定NPO法人IVY(アイビー)事務局長・理事

徳島県出身。同志社大卒。85年から山形県在住。94年からカンボジア担当となり、農村の貧困削減に取り組み20年。昨年10月、初めてイラクのクルド人自治区に足を踏み入れた。
筆者のあだちみちよさん