(1)ODA大綱とは
今年(2014年)は「国際協力60周年」です。1954年に戦後賠償として始まったコロンボ・プランへの参加に始まる、海外の途上国の貧困削減や生活改善、インフラ整備、人材育成などを目的とするODA(政府開発援助)が60周年を迎えました。市民社会による国際協力はそれよりも前から始まっていますが、ひとまず「60周年」ということで、政府は広報に力を入れています。本来であれば、ODAの根幹を規定する法律が制定され、国民の代表である国会での審議を経るべきですが、日本政府はこうした法律の代わりに、「政府開発援助大綱」(以下、ODA大綱)を1992年に制定しました。
(2)見直しの動き
2003年に最初に改訂された後、11年経った2014年に「開発協力大綱」と名称を変更し、閣議決定される予定です。ODA大綱見直しについては、今年3月に外務大臣より発表があり、開発協力に取り組む国際機関、研究者、民間企業、NGOなど計8名の委員からなる「有識者懇談会」が設置され、検討がなされました [1]。NGOからはJANIC理事長の大橋正明が参加し、4回に渡る有識者懇談会でNGO・市民社会としての論点を提示しました。
(3)「ODA大綱見直しに関するNGO円卓会議」
この有識者懇談会における大橋の論点を補強するために、JANICと動く→動かす[2]が共同で「ODA大綱見直しに関するNGO円卓会議」を設置し、のべ100名以上のNGO関係者が意見交換や情報共有を行ないました。円卓会議での議論を経て、各団体が貧困・格差や環境、ジェンダー、障害、開発協力、大綱見直しプロセスなどに関する提言書を発表しました [3]。
(4)ODA政策協議会臨時会合などでの意見交換
5月から6月にかけて、NGO・外務省定期協議会「ODA政策協議会」臨時会合(於:外務省)や関西でのODA大綱見直しに関する意見交換(於:JICA関西)など、国際協力NGOは外務省との対話や意見交換を続けてきました。また、JANICは国会での議論の活発化を目指して、国会議員勉強会を開催しました。8名を越える国会議員と政策秘書の参加があり、「国益重視の文書では英語に翻訳した際に露骨すぎる」というような意見が出されました。
(5)有識者懇談会報告書からNGO声明と「10の提言」の発表
6月末に有識者懇談会の報告書が外務大臣に手渡されました。NGOとしては、(1)貧困・格差解消を重視するODAを維持すること、(2)軍事支援とは明確に切り離すこと、(3)在外公館に現地の市民社会との連携を担当する社会開発班を設置すること、(4)国際目標である「GNI比0.7%のODA拠出」を遵守することなどを求めてきましたが、(2)について有識者懇談会報告書では、「現代では軍隊の非戦闘分野での活動も広がっており、民生目的、災害救助等の非軍事目的の支援であれば、軍が関係しているがゆえに一律に排除すべではなく、その実質的意義に着目しつつ、効果・影響等につき十分慎重な検討を行い、実施を判断すべき」という表現になり、これがその後の政府原案まで踏襲されることになります。
(6)日本各地での意見交換会
9月に10の地域別・分野別NGOネットワークが連名で「国際協力NGOによるODA大綱見直し10の提言」を発表し、政府原案の発表前に東京政府との意見交換を実施しました。10月末に政府原案が発表され、同時に東京・京都・福岡・仙台での公聴会の開催と30日間のパブリックコメントが実施されることになりました。各地での公聴会に参加したNGO関係者は、国益優先のために、今後も増加しないODAの対象を援助卒業国に拡大することの問題点や、民生目的・非軍事目的であれば軍隊への支援を検討することの問題を指摘し、関連する文言を削除すべきと述べました。
これに対する外務省の回答は「公聴会は修正を議論する場ではなく、意見を聞く場にすぎない」というもので、公聴会のあり方に疑問を抱く人も少なくありません。11月には東京で「市民セクター全国会議2014」(主催:日本NPOセンター)のセッションの一環として「新ODA大綱をめぐる議論と私たち~援助と国益の関係、民間資金の位置づけ、軍の関与等~」をJANICが開催しました。ここでは、目前に迫ったパブリックコメントに多くの意見を寄せてもらえるよう、小グループに分かれたディスカッションを実施しました。
(7)海外市民社会からのコメント、賛同受付
「10の提言」は英訳し、ODAの対象国や海外の市民社会組織からコメントや賛同を募りました。その結果、フィリピン、パキスタン、ネパール、シエラレオネ、ウガンダ、韓国などのNGOから、「再分配を重視した援助であるべき」「貧困と格差を解消するような援助であるべき」などのコメントとともに、「10の提言」への賛同が寄せられました。
開発協力大綱」の時代に寄せて
「開発協力大綱」が閣議決定されれば、今後10年程度の日本の公的資金による援助・開発協力の方針が決まります。2015年はミレニアム開発目標(MDGs)を引き継ぐ「ポスト2015年開発枠組」が策定され、世界中が貧困解消と格差の是正、持続可能な開発に向けて取り組む重要な時期です。この時代に合わせた日本の国際協力がどうあるべきかを示すものとして、ODA大綱改定の見直しと「開発協力大綱」の実施の議論に国際協力NGOは深く関わるべきです。
[1] 外務省「政府開発援助(ODA)大綱の見直しについて」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/kaikaku/taikou_minaoshi/
[2] 途上国の貧困問題解決に取り組む日本のNGOが70団体以上参加するネットワーク組織(本部:東京都)。
http://www.ugokuugokasu.jp/
[3] これまでにNGOが発表した提言書は以下のサイトに掲載しています。
http://www.janic.org/news/odataiko-minaoshi2014.php
国際協力ニュースVol.107掲載 (2014年12月発行)
【筆者】 堀内葵 (ほりうち・あおい)
(特活)国際協力NGOセンター(JANIC)
大学でSTS(科学技術社会論)を専攻し、環境学を学ぶためデンマークへ留学。在学中より大阪の「特定非営利活動法人AMネット」にボランティアとして関わり、のちに事務局長を務める。世界水フォーラムへの参加や日本国内の水道事業調査など「水への人権」を軸に活動を続ける。2012年より「特定非営利活動法人国際協力NGOセンター(JANIC)」調査提言グループに所属。ミレニアム開発目標(MDGs)達成に向けた提言や、外務省とNGOの定期協議会のコーディネイトなどに携わる。2015年3月に仙台市で開催される第3回国連防災世界会議に向けた日本のCSOによる「2015防災世界会議日本CSOネットワーク(JCC2015)」事務局長を務める。